セリフに関する注意点
前にト書きについて書いたので、今回はセリフについて書きます。かなり初心者向けの内容です。
脚本を書く作業の中で、「セリフ」を書くことは当然大きなウエイトを占めるものです。そして難しいものです。「セリフは才能に負う部分が大きいので、教えることは出来ない」と言う人もいます。確かにそうなのでしょうが、そう言ってしまうと脚本を書くこと全てが「所詮、才能で決まる」ということになってしないます。「これから勉強することで何とかなるか」ということを、教える方も学ぶ方も考える必要があります。そして、少なくともあるレベルまでなら勉強で何とかなります。
初心者がセリフを書くときに最初に直面する問題というと、どの人物のセリフも画一的で個性のないものになってしまうということでしょう。これはけっこう個人差があって、初めて書いてもそれなりにキャラを感じさせるこなれたセリフが書ける人もいれば、まるでロボットが喋っているような機械的で一本調子なセリフしか書けない人もいます。
後者のようなセリフを読んだときに不思議に思うのは、「普段自分や周囲の人はそんなふうには喋っていないことにどうして気づかないのか」ということです。
「どうすれば名セリフが書けるか」というような高度な話ではなく、「普通に人間が喋っていると感じられリアルさや、それぞれの個性が感じられるようなセリフ」はどうしたら書けるのでしょうか。
まず第一には、普段の生活の中で、自分や周囲の人が喋っている言葉に敏感になり、よく聞くことです。前に脚本を書くには人間に興味を持っている必要があると書きましたが、人間に興味を持つということは、当然人間が喋る言葉にも興味を持っていることになるはずです。生活の中であったことを色々と思い返せば、「あの人の話し方の特徴はこうだな」とか「あの言い方は面白かったな」などということが出て来るでしょう。
映画を分析する中にも、セリフに関することは当然含まれます。面白いセリフ、うまいセリフにぶつかれば、「あのセリフは面白かった。その理由はこうだ」とあ「あのセリフには、人物の気持ちやキャラを表現するためにこんな工夫がされている」などということをよく考えて、それを積み重ねて行くことです。
それ以外にセリフの勉強になることとして、落語を聞くことがあると思います。落語は一人の人が、色々な人物を演じ分けます。そのときにいちいち「次に誰それが言いました」などとは言いません。それでもどの人物が喋っているかわかります。それぞれの人物をどう演じ分けているか、キャラの特徴をどのように捉えているかなど、非常に参考になります。
教室などで、「よくないセリフ」と言われることが多いのは、「説明セリフ」と「長いセリフ」です。
説明セリフが全面的にダメということはありません。セリフの中に説明の要素は多かれ少なかれ入ってくるものです。刑事ドラマの捜査会議で事件の状況を話すセリフはまさに説明です。またミステリーのクライマックスで探偵や刑事が推理を述べるのも説明です。ドラマを見ている人が、「その説明を聞きたい」と思うシーンなら問題ないのです。
一方、普通の会話の中に「いかにも説明」という感じのセリフが入ると、見る人が白けてしまいます。それを「説明っぽく感じさせない」または「説明を人物の気持ちやキャラの表現に置き換える」ための工夫をすべきです。よく出来た映画を分析していれば、そのような例はいくらでも見つかるはずです。
長いセリフも、それ自体が悪いなどということはありません。名作の中には、長ゼリフが観客を引き込み、感動させるということはいくらでもあります。初心者の長ゼリフのほとんどは、さっき述べた説明ゼリフが高じて長くなってしまうというケースでしょう。人物の気持ちを語っているつもりでも、実は「気持ちを説明しているだけ」という場合が多いです。
セリフの長さの感覚については、名作を見るよりは、その脚本を実際に読むことでわかることが多いのではないかと思います。その方が、セリフの長さが目で見てわかるからです。プロが書いた脚本は、アマチュアが書いたものよりも短いセリフのやりとりが多いです。コンクールの審査などでアマチュアの作品を読んだとき、パッと見て「黒い」、つまりびっしりとセリフが書いてあると、「ああ、初心者だな」とわかります。長いセリフがダメというよりは、ちゃんと人と人の言葉のやりとりになっているということに着目することが大切です。
[尾崎将也 公式ブログ 2016年9月23日]