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主人公はドラマの要

Dec 16, 2018

CATEGORY : 脚本

 先日ツイッターで「主人公」について書きました。この機会に主人公についてもう少し詳しく書いておこうと思います。

 主人公はドラマにおいて非常に重要な存在、というより主人公無しにドラマは存在することが出来ません。脚本の勉強を始めたばかりの人は当然そんなことは知りません。早いうちに主人公とは何かという認識をきちんと持つことが必要です。そうしないといつまでも形にならないものを書き続けることになります。

 主人公とは主体的に意思を持って行動し、そのドラマを動かして行く人です。ドラマには対立・葛藤が必要です(なぜ「対立・葛藤」が必要なの?という疑問が沸くかもしれませんが、それはまた別の機会に)。主人公は行動することで対立や葛藤に直面し、悩んだり苦しんだりします。その結果新たな行動を起こすことで、ストーリーを動かして行きます。ですから主人公はそのドラマの中で一番悩んだり苦しんだりします。
 「意思を持って」「行動し」「そのことで対立・葛藤に直面し」「悩んだり苦しんだりする」「そのことでストーリーを動かして行く」などが主人公の条件と言えます。

 教室で初心者のプロットや脚本を読んで、「この作品の主人公は誰?」と聞くと、色々な答えが返って来ます。
 よくいるのが「この人と、この人が主人公です」と主人公が複数いると答える人。原則として主人公は一人です。その主人公の行動を軸に作って行くので一本のストーリーが出来るのです。まれに映画やテレビドラマで、二人以上の人物を平行して描き、誰が主人公かはっきりさせないものがありますが、あくまで例外的なものです。まずは基本から学ぶようにしましょう。

 また「主人公はこの人です」と作者は答えるものの、僕が読むと別の人物が主人公ではないかと思える場合も多いです。つまりストーリーと主人公が食い違っているのです。これではちゃんとしたドラマは出来ません。
 この「ストーリーと主人公が食い違っている問題」について少し詳しく考えてみましょう。例えば人物Aと人物Bが出会うとします。Bは実は詐欺師で、Aをだまそうとしていますが、Aはそのことを知りません。そして詐欺の計画は進行し、最後にAはだまされたと知る。この話の場合、どちらが主人公になりやすいでしょうか。通常は詐欺師の方が主人公になります。なぜでしょうか。それは詐欺という行為を主体的に意思を持って行い、うまく行かせようと苦心したり、罪悪感に悩んだりするのは詐欺師の方だからです。「被害者だって、だまされたことで悩んだり、金を失って困ったりするじゃないか」と思うかもれませんが、それはだまされたと知った後のことです。詐欺が進行している間は被害者は何も知らず受け身の状態です。
 詐欺の被害者が主人公になるとしたら、ストーリーの早い段階でだまされたと知り、犯人を捕まえようと行動するか、途中で「あの人は自分をだまそうをしているのでは」と疑いを抱き、真相を探ろうと行動するなどの場合です。

 次に主人公について実例を元に考えてみましょう。『ローマの休日』の主人公は、アン王女(オードリー・ヘップバーン)と記者のブラッドレー(グレゴリー・ペック)のどちらでしょうか。教室の生徒にこれを聞くと、面白いくらい間違えて「アン王女」と答えます。しかし正解はブラッドレーです。ブラッドレーは「王女をローマの町を案内してこっそり写真を撮り、それで金儲けしよう」ともくろみ、それを実行します。そしてそれをうまく行かせようと四苦八苦します。またそれをするうちに王女を好きになり、せっかく撮った写真を封印します。それに対して王女は上記の詐欺の被害者と同様に何も知らずにローマの町を案内されています。
 なぜ多くの人が王女が主人公だと思ってしまうかというと、「王女の方が何となく目立っているから」に過ぎません。主人公というのはもっと厳密で論理的なものです。ポスターに大きく顔が写っているから主人公とは限らないのです。

 また「語り部が主人公とは限らない」というのも間違えやすい点です。語り部はストーリーの案内役で、その人がストーリーを動かす主人公とは限りません。例えば『タイタニック』はローズが語り手ですが、主人公はジャックです。
 ただ、ラブストーリーの場合、メインの男女二人でストーリーを作るという性格が強いので、主人公と相手役の重要度の差が少ないことが多いです。ただそれでも「主人公がどちらかわからない」などということはなく、分析すれば必ずどちらかが主人公の役割を果たしているはずです。

 主人公について理解を深めるのに一番いい方法は、既存の映画などを見て主人公は誰かを考えることです。『ロッキー』のような映画はロッキーが主人公だというのが一目瞭然ですが、例えば小津安二郎の『晩春』などは、父と娘のどちらが主人公か考えるとよい勉強になるでしょう。主人公について考えることは同時にドラマやストーリーについて考えることです。上に書いた「どうしてドラマには対立・葛藤が必要なのか?」というようなことも、これらのことを分析する中でわかってくるのではないかと思います。

[尾崎将也 公式ブログ 2018年12月16日]

 

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