脚本家・映画監督 尾崎将也 OFFICIAL SITE

Movie

Movie Blog

Calendar

twitter

twitter

Book
ビンボーの女王

ビンボーの女王

3年でプロになれる脚本術

3年でプロになれる脚本術

Visual
世界は今日から君のもの

世界は今日から君のもの

結婚できない男

結婚できない男

お迎えデス。

お迎えデス。

MASAYA OZAKI OFFICIAL BLOG

HOME / TOP

プロットの枚数はどうでもいい

Aug 16, 2018

CATEGORY : 脚本

 「プロットを直しているうちにどうしても長くなってしまいます。これでいいのでしょうか」という質問が来ましたので、それに対する回答です。
 結論としては、プロットの長さはどうでもいいです。教室などでプロットを提出するときに「何枚以内」などと規定があるかもしれませんが、別にその枚数が「プロットの正しい長さ」ということではありません。
 大事なのは、プロットの長さよりも出来上がるドラマの時間的な長さです。それは脚本の枚数と比例します。1時間ドラマ(正味45分)の脚本は四百字原稿用紙で60枚程度です。
 通常プロットを書くときは、コンクールに出すのが目的にせよ、教室の課題にせよ、目標とする脚本の長さが決まっているはずです。思いの向くままに書いて、どんな長さになるかは成り行き次第というのは小説ならあるかもしれませんが、脚本の場合は必ず目標とする長さがあるのです。従ってプロットを書く時点で最終的なドラマの長さ(=脚本の長さ)を意識する必要があります。

 プロットが長くなってしまうというときには、二つの可能性があります。
①時間的な長さが長い(1時間もののつもりで書いたのに2時間になってしまうというようなこと)。
②詳細を描き込んだので長くなる。
 長くなる原因はこの二つか、それが混合したものです。この二つは大きく違います。②で長くなることは何の問題もありません。色々考えるうちにディテールを思いついて、それを書き込むことで長くなるというのはあることです。例えば「<A>二人はひょんなことで知り合う」というのを、「<B>二人は道で肩がぶつかり、片方が持っていたものを落として壊してしまう。弁償するのしないのということでモメるうち、お互いが同郷だということがわかり、いつしか打ち解ける」などと具体的な中身を書くというようなことです。<A>より<B>は文字数は長いですが、出来上がったドラマ(脚本)の二人の出会いのシーンの長さが変わるわけではありません。
 <A>のプロットで脚本を書こうとした場合、二人がどうやって出会うかという具体的な中身は脚本の作業の中で考えることになります。それに対してプロットで<B>まで出来ていれば、それを脚本に起こして行く作業になります。どっちにしても考えなければいけないことを、プロットの段階で考えるか脚本の段階で考えるか、という違いでしかありません。これはどちらが正しいということはありません。それぞれやりやすい方でやればいいのです。


 そのことと、①のプロットが長いせいで作品自体が長くなることは全然別のことです。1時間ドラマのコンクールに出そうとしているのに2時間のプロットになってしまったとしたら大きな問題で、これはプロットの段階で解決しなくてはいけません。今回の質問をした人は、自分のプロットが長い原因が①なのか②なのかを見極める必要があるでしょう。


 2時間ドラマのプロットを1時間ドラマにしようというとき、ところどころカットすればいいということはありません。1時間ものと2時間ものでは構造が違うので、そこから考え直さなくてはなりません。ところどころカットしたり書き足したりして長さの問題が解決するのは、僕の経験では1~2割長いか短いかという範囲です。それ以上になると上に書いたように構造の問題になってきます。
 しかし、自分が書いたプロットが脚本にしたときにどのくらいの長さになるかというのは、初心者のうちにはなかなかわからないでしょう。これは何本も書いてみて試行錯誤しながらつかんで行くしかありません。

[尾崎将也 公式ブログ 2018年8月16日]

 

[宣伝]

★映画『世界は今日から君のもの』DVD&Blu-ray 発売中

★小説『ビンボーの女王』(河出書房新社)発売中

映画分析の方法・補足

Apr 06, 2018

CATEGORY : 脚本

 拙著『3年でプロになれる脚本術』を読んだ方から、映画を分析してカードを作る方法について質問が来たので、本書に書いたことの補足として、いくつか注意事項を書きます。

 本書では、映画を見るときは一回目はお勉強モードにならずに、普通に観客として見るように、と書きました。その理由は、人を楽しませるものが書けるようになるには、まず自分自身が映画やテレビドラマを楽しんでいることが大切だからです。つまらないと思ったり退屈したりということも逆の意味で大切です。観客として何かを思っていることが必要なのです。
 次に、自分が何を面白いと感じたのか、どこに感動したのかを考える段階に入ります。ここからが分析の作業です。漠然と「なんか面白かったなあ」というだけでなく、
①どこがどう面白かったのか思い出す。
②そこはなぜ面白いのか考える。そして「ここがこうなっている」「こんな工夫があるから面白い」という答えを見つける。
③それを言語化し、紙(カード)に書く。
という作業を繰り返すのです。
 要は①~③の作業をたくさんやればよいので、別にそれ以上のお作法のようなものはありません。よく出来た映画を詳細に分析すれば、20~30枚のカードを書くことが可能でしょうが、別に1枚でも書ければそれでよいのです。また作品全体を見ていなくても、例えばテレビドラマをたまたま途中だけ見たときに何か気付いたことがあれば、それで1枚のカードを作ってもよいのです。

 それとは別にストーリーや構成を学ぶ方法として、映画を見て構成表(逆バコ)を作る方法を書きました。今回の質問は「構成表を作るのは2回目に見るときか3回目に見るときか?」ということですが、別にそんなことはどうでもいいことです。
 構成表を作る作業自体は単純作業です。上に書いたカードを作る方法は、カードに書き込む時点で何かを発見しているはずです。しかし構成表は、それ自体は単に流れを箇条書きに書いただけのもので、書く時点でまだ何もわかっていなくてよいのです。
 問題は、出来た構成表を見て何を読み取れるかということです。まずは「ここで主人公が登場している」「ここで主人公が事件に巻き込まれている」「ここで話が大きく転換している」など表面から読み取りやすいことを読み取って行きましょう。
 次に「三幕に分けるとすればどこか?」「クライマックスはどこか?」「ミッドポイントがあるとすればどこだろう」など深い部分に入って行きます。この段階のことをやるには、そもそも「三幕構成とは何か」「クライマックスとは、ミッドポイントとは何か」というようなことがわかっている必要があります。わからなければわからないなりに「どうも自分はまだよくわかっていないようだ」と思えばよいのです。何も思わないよりは意味があります。

 カード作りにせよ、構成表から読み取る作業にせよ、作品を何度も見て考えることを繰り返せば、見方は深まって行くはずです。だから「何回目に見るときにこの作業をやるべき」というようなことはないのです。繰り返し見ながらやって行けば、前に見たときにわかっていなかったことに気付くことがあるでしょう。
 「そんなに一本の作品の分析に手間をかけるのか?」「どのくらいで別の作品に移ればいいの?」という疑問が沸くかもしれませんが、特に決まりはありません。飽きたら別の作品に移るでもいいし、「一本の作品を深めるより多くの作品にトライしたい」と思うのであればそれでもいいと思います。上にも書いたように、チラリと見ただけの作品からひとつだけでも学ぶことがあれば儲けものなのです。この勉強法は、何かをクリアして次に進むものではなく、たくさん積み重ねた先に何かが見えてくるという性質のものです。本書に書いたやり方は、「これが正しいやり方なのでそれを守ってやるべき」などということは全くありません。自分でやるうちに「こっちの方がやりやすい」とか「この方が効果がありそうだ」と思えば、変更してよいのです。
 ここに書いた方法に限らず脚本の勉強は、長期間かけて少しづつ積み上げていくものです。短期的なことなら「頑張って」やることが出来ますが、長期的なことを頑張り続けるのは難しいです。頑張らずに、日常的に、ごく普通のこととして楽しんでやることが長続きする秘訣です。

[尾崎将也 公式ブログ 2018年4月6日]

[告知]

★新ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』4月10日(火)より毎週夜9時放送

★映画『世界は今日から君のものDVD&Blu-ray 5月2日(水)発売

初心者がプロットを考えるときのチェックリスト

Dec 26, 2017

CATEGORY : 脚本

 前に、「脚本初心者あるある」というタイトルで、脚本の初心者がプロットを書こうとするときによく起こる問題点について書きました。今回は、「ではどういう点を守って書けばいいのか?」というチェックリストを書いてみます。

(1)一人の主人公を決める
 ドラマは、ほとんどの場合、「特定の一人の人物を主人公としたドラマ」です。「この人の、こういうドラマ」というところにその作品の本質が現れます。この原則から外れた「群像劇」のようなタイプの作品も例外的にありますが、初心者はまずは基本を勉強することが大切なので、「主人公はこの人」と決めて「その人が主人公のストーリー」を考えてください。なぜそうしなければいけないんだろうと思っても、とりあえずは「それがルールらしい」と思っておいてください。

(2)葛藤があるか
 「ドラマには葛藤が必要」というのは、脚本の勉強を始めたら必ず聞くことでしょう。しかしそれは初心者にはわかりにくいことのようです。「葛藤が必要」と意識した上で書いても、往々にして葛藤のない作品になります。
 葛藤とはわかりやすく言えば、「主人公が困ること」です。例えば刑事ドラマの「困ること」は犯人が誰かわからないか、誰かわかっているけどどこにいるかわからないということです。主人公の刑事が捜査して、その困ったことを解消するのが刑事ドラマのストーリーです。困ったこと(犯罪)が起こらず「平和でいいなあ」と言っていてもストーリーにはなりません。
 また初心者は「葛藤をワンポイント入れればOK」という勘違いをよくします。「この作品には葛藤がない」と言うと、「あります。ほら、ここに」と一行を指さすのです。刑事ドラマで事件発生から捜査して犯人を逮捕するまで一定の時間を要するように、葛藤は「時間の中」に存在します。
 また葛藤には「人物対人物」「人物対環境(貧乏とか病気とか)」「人物の心の中の葛藤(迷いとか自己否定とか)」の三種類あると覚えておくと、考えやすいでしょう。

(3)一本の軸に絞る
 初心者に「これはどんな話か」と聞くと、「あれと、これと、これも」などといくつも言うことがあります。ドラマは主人公が一人というのが原則であるのと同じように、ストーリーの軸もひとつというのが原則です。もちろんメインの軸に対してサブストーリーがあるのは普通ですが、それはメインの軸を描く上でそのサブストーリーを入れることが効果的だという判断により、あくまで「サブ」として入れられているものです。中には全く関係のないように見える複数の話が交錯するような作品もありますが、例外的なものです。

(4)知っている範囲のことを書く
 知らない世界を取材して書くことは悪いことではありませんが、時間や手間をかけて取材したとしても、それはその取材対象について詳しくなっただけで、脚本を勉強したわけではありません。先日、刑事と交番のお巡りさんの違いを知らずに警察を舞台にした作品を書こうとしている生徒がいましたが、そんな状態から警察のことを調べ始めて、警察を舞台にした作品が書けるようになるにはかなり長い道のりが必要です。今は脚本の基礎を勉強することが第一なので、自分が知っている範囲のことを題材にした方がいいと思います。

(5)自分がなぜそれを書きたいか答えられるものを書く
 教室では「とにかく課題を提出しなければ」ということで深く考えずに書いてしまい、「なぜこれを書いたの?」と聞いても「いや、何となく」くらいしか答えられない人が割といます。ドラマを書くには、その題材やテーマに深く入り込むとか、人物に共感したり興味を持つことが必要です。
 何となく思いついたことであっても(どんな思いつきも最初は何となく浮かぶものですが)、自分はなぜそれを思いついたんだろう、どこに興味を引かれたんだろう、ということをよく考えるべきです。それを突き詰めたときにそのドラマの本質が見えるのです。

(6)「ストーリーの途中から入ること」を考えてみる
 初心者に限らず、そこそこ勉強した人でも、ストーリーの前段の部分に余計な枚数を割いてしまい、肝心のストーリーが始まるのが遅くなってしまうということがよくあります。話を考えているときには必要な段取りだと思っているのでしょう。生徒にはそういうことがよく起こるのだと認識して、「思い切って前の方を省略して途中から入る方法はあるか?」と考えてみた方がいいでしょう。

 以上が全てではありませんが、重要度の高そうなものを書きました。これを横に置いて「これらがクリア出来ているか」を確認しながら考えてください。
 ただ、そうやって注意して考えたつもりでも、間違いをすることはあるでしょう。試行錯誤は必ずあるし、必要なことです。ここに書いたようなことを注意するのは、試行錯誤をしないいためではなく、「ちゃんと必要な試行錯誤をするため」と言えるでしょう。

[尾崎将也 公式ブログ 2017年12月26日]

映画の中の「増幅テクニック」の実例

Aug 02, 2017

CATEGORY : 脚本

 前回、脚本を面白くするテクニックのひとつ「増幅」について書いたところ、かなりの反響があったので、今回はその実例をいくつか紹介します。これらは、僕が映画を分析していて、「面白いな」と思ったところを「なぜ面白いのだろう」と考えた結果、「こういう増幅が行われているから面白いのだ」と気づいたところです。

[例1]
[作品]『昼下がりの情事』(ビリー・ワイルダー監督 57年)
[描写]ヒロインのアリアーヌ(オードリー・ヘップバーン)は男・フラナガン(ゲイリー・クーパー)と会って、彼のプレイボーイぶりに腹を立てる。翌日アリアーヌはフラナガンを非難する手紙を書く。しかし書き終わった手紙を火にくべて燃やしてしまう。
[解説]非難の手紙を書くものの燃やしてしまうことで、彼女が男にひかれていることを表現しています。例えば日記に「私、あの人にひかれてるみたい」と書く描写では単なる説明にしかなりませんが、「非難の手紙を書くが、燃やす」と一旦逆に振ることで「ああ、このあと恋に落ちて行くんだろうな」という感じがしみじみと伝わります。野球でバットを振るとき、一度逆方向に振りかぶってスイングすることで打球が遠くに飛ぶのとメカニズムは似ています。

[例2]
[作品]『アパートの鍵貸します』(ビリー・ワイルダー監督 60年)
[描写]主人公バクスター(ジャック・レモン)が落ち込んでバーで飲んでいると、おりしもクリスマスで、サンタクロースの恰好をした男が騒いでいる。
[解説]落ち込んだ主人公と同時に浮かれている人を存在させてコントラストをつけることで、主人公のやるせない気持ちを増幅する表現です。これは割とよく使われる手法です。『酔いどれ天使』(黒澤明監督 48年)で、主人公のヤクザ松永(三船敏郎)がうちひしがれた気持ちで街を歩いているとスピーカーから明るいカッコーワルツが流れてくるシーンなどもそうです。


[例3]
[作品]『刑事ジョン・ブック 目撃者』(ピーター・ウィアー監督 85年)
[描写]主人公の刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)が敵に撃たれて怪我をして、アーミッシュの村に住む未亡人レイチェル(ケリー・マクギリス)の家に匿われる。レイチェルは危険だからとジョンの拳銃を預かる。ジョンが「銃を出してくれ」と言うと、レイチェルは小麦粉の中から粉まみれの銃を出す。
[解説]この作品は刑事ものであると同時にジョンとレイチェルのラブストーリーでもあります。荒っぽい世界に生きているジョンと平和的な暮らしをしているレイチェルの違いが、銃という暴力の象徴のようなものと小麦粉という生活を象徴するものをぶつけることで表現されています。銃が粉まみれになっていることで、ジョンがレイチェルに歩み寄って行く感じもわかります。そしてこれは不思議なことですが、このシーンを見ると、この二人がこれから恋に落ちるだろうということも感じられるのです。単に戸棚に仕舞ってある銃を出すだけでは、これらのことはほとんど表現されないのではないでしょうか。

[例4]
[作品]『ロッキー』(ジョン・G・アヴィルドセン監督 76年)
[描写]落ちぶれた暮らしをしていたボクサーのロッキー(シルヴェスター・スタローン)は、チャンピオンと試合をすることになる。彼に冷たく当たっていたミッキー(バージェス・メレディス)がトレーナーをやらせてくれと言ってくると、ロッキーは「今さらなんだ」と怒りをぶちまけて追い返す。しかし少ししてロッキーは肩を落として帰って行くミッキーを外に追いかけて行き、トレーナーになってくれと言って握手する。
[解説]自分に冷たくしていた男に「今さら何だ」と怒るのは当然として、このシーンでは、その会話の中でロッキーが考えを変えてトレーナーを頼むのではなく、一度は拒絶して追い返すものの、少しして思い直して外に追いかけて行くことで感動的なシーンになっています。ここでのロッキーの怒りは非常に激しく、とても同じ会話の中で考えを変える雰囲気ではありません。一度追い返してから、それでも追いかけて行くことでロッキーの優しさがしみじみと伝わります。振り幅を大きくすることで深みや感動が加わっているのです。

 これらの例を見ると、二つの要素を同時に見せるか、前後に並べることで増幅の効果が出ることが多いようです。当然のことながら、増幅するには、まず「何を」増幅するか、ドラマの中でこれは増幅すべきものだという考えがなくてはなりません。

[告知です]

映画「世界は今日から君のもの」
監督・脚本:尾崎将也 / 音楽・川井憲次 / 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

渋谷シネパレスほかで上映中

※8月6日(日)、テアトル梅田で僕の舞台挨拶を開催します。詳しくは劇場公式サイトで。

公式ツイッター

公式Facebook

 予告編

[尾崎将也 公式ブログ 2017年8月2日]

脚本の超重要テクニック「増幅」とは何か

Jul 21, 2017

CATEGORY : 脚本

 前回、カードの分類項目を示した中に「増幅」というのがありました。それについては「別の機会に詳しく」と書いたので、今回はそのことについてです。

 「増幅」というのは脚本を面白くするために非常に重要なテクニックです。この感覚を身につけるだけで作品が大きく変わるかもしれません。よく「粒立てる」「メリハリをつける」「振幅をつける」などと言いますが、同じようなカテゴリーのことです。
 「粒立てる」とか「メリハリをつける」というのは言葉としては何となくわかるので、教室などで「粒立てろ」「メリハリをつけろ」と言われれば「わかりました」と答えるでしょう。しかし実際にそれが出来る生徒は少ないです。その意味するところを理解し、どうすればそうなるのかという具体的なテクニックを知らないからです。
 単に人物の感情を激しくして「!」をたくさんつければよいのだと勘違いする人がいますが、そうではありません。もちろん「!」をつけることが効果的という場合もあるので、それも増幅のひとつの方法ということは出来ますが、それはほんの一部でしかありません。

 わかりやすい例を挙げます。映画「ゴースト~ニューヨークの幻」のワンシーンです。冒頭、主人公のサムは昔のコインが入った瓶を見つけて「お守りだよ」と恋人のモリーに渡します。これはいわば二人の愛のシンボルのようなものです。ところが物語の展開の中で絶望状態に陥ったモリーは、この瓶を階段の上から落として割ってしまいます。
 この瓶を割るシーンでは、モリーの絶望状態をお守りが入った瓶を割るという行為で「表現」しています。「私には何の希望もないわ」などと言うと単なる説明ですが、お守りの入った瓶を割るという行為でセリフなしで表現しているのです。
 そしてもう一つ、この描写の中には「増幅」というテクニックが隠されています。それは「お守りが瓶に入っている」ということです。お守りはコインであって、瓶はただの入れ物です。ではなぜコインが瓶に入っている設定にしたのでしょうか。それは階段から落としたときにガチャン!と割れる、そのショッキングな感じを出したかったからです。裸のコインを投げてもチャリンと転がるだけで、インパクトはありません。瓶に入っていることでガチャンと割れるショッキングな表現にすることが出来ます。
 この映画の脚本家は、最初サムがコインを裸の状態で見つけてモリーに渡す描写を書いたかもしれません。しかしこのシーンにさしかかったとき「コインだけ投げてもインパクトがないな」と思って瓶に入っていることにしようと思いついたのかもしれません。そして最初のシーンに戻ってコインが瓶に入っているというふうに書き直したのではないか。そんなふうに僕は想像します。
 これが「増幅」の一例です。ここはストーリーの中でも重要なシーンなので、作者はこのときのモリーの絶望を強調したいわけです。そのための方法が「瓶に入っている」ということなのです。
 面白い映画やドラマの中にはたくさんの増幅があります。こういうことをたくさんやることで作品は面白くなるのです。逆にこういうテクニックを知らず、何もしなければ、面白くならないのは当然です。
 まずは面白い映画を見て、「ここに増幅があるな」と気づくことから始めなければなりません。そのためには、自分が何を面白がっているかということをよく見つめることです。

[告知です]

映画「世界は今日から君のもの」
監督・脚本:尾崎将也 / 音楽・川井憲次 / 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

渋谷シネパレスほかで上映中

公式ツイッター

公式Facebook 

感想まとめ

予告編

[尾崎将也 公式ブログ 2017年7月21日]

TOP
OLDER