脚本家・映画監督 尾崎将也 OFFICIAL SITE

Movie

Calendar

twitter

twitter

Book
ビンボーの女王

ビンボーの女王

3年でプロになれる脚本術

3年でプロになれる脚本術

Visual
世界は今日から君のもの

世界は今日から君のもの

結婚できない男

結婚できない男

お迎えデス。

お迎えデス。

MASAYA OZAKI OFFICIAL BLOG

HOME / TOP

サスペンス・ドラマの脚本家になるには

Aug 06, 2016

 前回のブログを読んだ教室の生徒から質問が来ました。「自分はサスペンス・ドラマが大好きで、そういうドラマを書く脚本家になりたいのですが、どうすればよいでしょうか」というものです。確かに前回のブログには、特定のジャンルを書きたい場合の話が入っていませんでしたので、書いてみたいと思います。

 前回も述べたように、プロの脚本家になるということは、プロデューサーから脚本を書いてくれと依頼が来るということです。脚本の勉強を始めた人が、どうやってそこに至るかということをイメージするには、次の例えがわかりやすいと思います。
 川があるとして、自分は下流の方の土手にいます。これから上流に向かって歩いて行きます。これが脚本の勉強をして実力をつけて行くということです。上流に行くほど面白いものが書けるようになっているということ。一方、プロになることは、向こう岸に渡ることです。ではどうすれば向こう岸に行けるのでしょうか。それは「上流に行けば、橋がある」ということです。十分に実力があり面白いものが書ける人が放置されたままになることはありません。誰かがその実力を発見して、橋を用意してくれるのです。逆に十分上流に達していないのに向こう岸に渡りたいと思っても、そんなところに橋はありません。上流まで行った人が、橋を用意してくれる人(プロデューサー)に発見してもらうための方法が、前回述べた「コンクール」「紹介」「持ち込み」の3つになります。

 これを踏まえて、サスペンスなど特定のジャンルのドラマを書きたい人はどういう考え方で臨めばいいのでしょうか。
 ひとつの考え方は、「どんなジャンルのドラマを書くかはプロになってからの話。それまではただ面白いものが書けるようになることだけを考えろ」というものです。さっきの例えで言えば、どんなジャンルのドラマを書くかは橋を渡った後の話なので、それまでは上流に向かうことだけ考えろということです。
 一方、本当にサスペンス・ドラマが好きで、そこに目標を絞りたいということなら、それもありかも知れないと思います。ただ一般的には、コンクールにサスペンス・ドラマの脚本を応募しても、入選する可能性は低いでしょう。コンクールでは新鮮な題材やテーマの作品、若い感性などが求められる傾向があります。殺人事件が起こって刑事が解決するような作品をそれなりに高いクオリティで書いたとしても、審査員は「こんなものはプロの脚本家ならいくらでも書ける」と感じてしまうのです。ではサスペンス・ドラマを書きたい人が渡れる橋はどこにあるのでしょうか。

 まず当然のことながら、サスペンス・ドラマを書きたいというなら、そのための勉強をすることが必要です。「今は書けないけど、書きたい気持ちだけは人に負けません」などと言う人に依頼するプロデューサーはいません。
 サスペンスものを書けるようになるには、普通の人間ドラマを書く勉強に加えて、次のようなことが必要でしょう。
①「ミステリーの書き方」のような本を何冊か読む。
②ミステリー、サスペンス系の名作小説をたくさん読む。
③ミステリー、サスペンス系の名作映画をたくさん見る。そして分析をする。
 たまに初心者で、「自分は人生経験が少なくて人間ドラマを書く自信がないので、ミステリーを書こうと思います」という人がいますが、大きな間違いです。ミステリーを書くにはそのためのノウハウが必要なのです。
 僕は生徒時代、①~③の勉強をかなりやりました。サスペンス・ドラマを書きたいと思ったわけではなく(そういう仕事が来たら対応出来るようにしたいという気持ちはありましたが)、これらの勉強がドラマ全般を書く上で、より面白くするための勉強になると思ったからです。実際、とても役に立ったと思います。またプロになってから、サスペンス・ドラマを何本か書きましたが、そのときの勉強のおかげで特に困ることはありませんでした。(※1)

 さて、サスペンス・ドラマに特化した勉強をして、ある程度実力がついたとします。川の上流まで来たということです。渡れる橋はどうやって探せばいいのでしょうか。コンクールは可能性が薄いとすると、「紹介」か「持ち込み」ということになるでしょう。紹介にせよ持ち込みにせよ、サスペンス・ドラマを書きたいなら、そういうドラマを作っているプロデューサーと出会う必要があります。サスペンス・ドラマは大抵は制作会社がテレビ局から発注を受けて作っています(※2)。ドラマのクレジット・タイトルを見て、どんな制作会社がサスペンス・ドラマを多く作っているのか、自分が好きな作品のプロデューサーはどこの会社の何という人か知る必要があります。とは言え、そのターゲットの人に都合よく紹介して貰えるなどという可能性は低いと思いますので、前回述べたようなやり方で持ち込みをした方がいいかも知れません。

 プロデューサーと知り合いになり、それなりに実力を認めてもらったとしても、すぐに「じゃあこの原作で2時間サスペンスの脚本を書いて」となる可能性は少ないと思います。最初はプロットや企画書を書く仕事を頼まれることになるでしょう。いわゆるプロットライターという状態です。この状態から、どうすれば一本立ちして脚本を書けるようになれるのか。これはなかなか難しい問題です。一概にこうすれば、という決まったコースがあるわけではありません。何人かの脚本家でシリーズものを書くときにたまたま欠員が出来たとか、脚本は別の人が書く予定でプロットを書いていたら、その人が急に書けなくなったとかいうような、成り行きとか運の要素が入って来るでしょう。どの脚本家もそのようにしてプロになっているのです。

 サスペンス・ドラマの脚本家になることに焦点を絞った場合について書いて来ましたが、一方では、そのやり方が正しいのだろうか?という疑問もあります。サスペンス・ドラマは、そのジャンルのためのノウハウが要求される職人性の強い仕事です。そしてプロの世界にはサスペンス・ドラマのノウハウを持っている人がいくらでもいますから、プロデューサーからすれば、「あなたより面白いものを書ける人ならいくらでもいるけど、なぜあなたに書かせないといけないの?」ということになってしまう可能性が高いのです。一般のドラマなら、自分の持ち味や感性、独自の視点で勝負することも出来ますが、サスペンス・ドラマの場合は、場数を踏んだプロと不利な戦いをすることになってしまうことは覚悟しておくべきでしょう。

 また他に特定のジャンルというと「時代劇」がありますが、基本的な考え方はサスペンス・ドラマと同じです。しかし、時代劇は今は作られている数が少ないので、より狭き門になるでしょう。上に書いたように「まずは橋を渡る」ことを優先した方がいいと思います。

※1 もしサスペンス・ドラマを専門に書いているような脚本家に直接指導を受けたいなら、そういう人がどこかの教室で教えていないか探すか、または直接頼むしかないでしょう。連絡先がわからなければその人が所属している団体(日本脚本家連盟のような)か、その人が仕事しているプロデューサーに連絡を取ってみることでしょう。ただしすぐ連絡先を教えてもらえることはありません。「こういう人が連絡を取りたいと言っていますが、連絡先を教えてもいいですか?」と間に立った人に聞いてもらうことになります。教室の講師でもない人が「わかりました。教えてあげましょう」などと簡単に言うとは思えませんが。

※2 テレビドラマには、テレビ局が単独で作る「局制作」のものと、制作会社が局に依頼されて作るものがあります。前回、持ち込みの対象として「テレビ局のプロデューサー」と書きましたが、プロデューサーにはテレビ局の人と制作会社の人がいるということです。当然、制作会社のプロデューサーに持ち込みすることも可能です。自分の好きなドラマはどこが制作しているか、どんなプロデューサーが作っているか、脚本家を志望するなら意識して見る必要があるでしょう。

[尾崎将也 公式ブログ 2016年8月6日]

NEWER
TOP
OLDER