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ト書きはこれで大丈夫

May 01, 2016

CATEGORY : 脚本

ト書きの書き方について時々質問を受けるので、まとめて書いておこうと思います。初心者のうちは戸惑うことはあるものの、「ト書きとはこういうものだ」と一度わかってしまえば、あとはそう悩むほどのものではありません。プロの脚本家がト書きで悩んでいるという話は聞いたことがありません。「ここで主人公は立ち去るべきか、残るべきか」を悩むとしても、それはドラマの中身で悩んでいるのであって、ト書きの書き方で悩んでいるわけではありません。物語、キャラクター、セリフなどはプロでも常に苦心しており、その苦心が終わることはありませんが、ト書きで苦心するのは割と早い段階で終わるはずです。

ト書きは「歩いて来る」「座る」などの人の動きや「泣きながら」「笑顔で」などの表情、あとは「古い雑居ビルが建っている」とか「雨が激しく降っている」などその場の状況を、目に見えるものを具体的かつ簡潔に書くものです。こう書くとひどく簡単なようですが、初心者が犯しやすい間違いがいくつかあります。

生徒のト書きに関する間違いの原因は、大きくふたつあります。それは「時間を意識できないことによるもの」と「映像を意識できないことによるもの」です。
まずひとつめの「時間」に関すること。初心者に多い例として、人物が食卓に座って「いただきます」と食べ始めて、いくつかセリフのやりとりをしたところで「ごちそうさま」と食べ終わって席を立ってしまうようなケースがあります。これだと1分くらいで食べ終わったことになってしまいます。脚本を書くには、その行為や会話にどれくらいの時間がかかるかを常に意識する必要があるのです。この例の問題を解決するには、食べ始めからシーンを始めて食べている途中で終わる、食べている途中から始まって食べ終わるまでを描く、食べている途中から始まって途中で終わる、または食べている途中で時間経過させて食べ終わるところに飛ぶ、などの方法があります。
上の例はシーン全体に関わるようなケースですが、ト書き一行でも同じような問題が起こります。(先日ツィッターにも書きましたが)「レジで金を払う」と書くと一見5秒くらいで終わるような感じがしますが、実際は「財布を出す→レジに金を置く→店員が金を受け取り、釣りを出す→釣りを受け取り財布に入れる」などの一連の動きには30秒くらいはかかります。だからト書きに「レジで金を払う」とだけ書くと、その30秒間、ただ金を払うだけの描写を視聴者に見せるのか?ということになってしまいます。こういうことがわかっていれば、それを避けるために金を払う描写を省略するとか金を払いながらセリフのやりとりを続けるなどの方法を取ることが出来ます。
次に「映像を意識出来ない」ことで起こる問題です。以前、生徒が何の気なしに書いた「誰それが車にひかれる」というト書きを見てびっくりしたことがあります。この文は日本語としては特に問題ありませんが、脚本のト書きとしては大きな問題があります。ト書きをこう書くと、実際に人が車にひかれる残酷な描写を映像化するのか?そのためにスタントマンを使うのか?それともCGでやるのか?などということになってしまうのです。現実にはテレビドラマではそんなことはしません。普通は「太郎が道を渡る。一方から車が猛スピードで走って来る。それを見て顔が恐怖に歪む太郎」などと書いて、事故の瞬間は見せない形にします(これは一例であって、これが優れた描写ということではありません。また映画などでこのような残酷な描写をあえてする場合はあります)。つまりト書きは「こんな映像を撮ってね」と現場に指示する意味合いもあるのです。だから書く側はその映像を頭に思い浮かべた上で書く必要があります。
「時間を意識していない」「映像を意識していない」と書きましたが、ではこういうト書きを書く初心者が何を意識しているかと言えば「文字」だけです。しかしテレビドラマや映画の脚本は、最終的に俳優が演じたものを映像にするために書きます。常にその最終形を具体的に意識する必要があるのです。
「映像にする」と関わることでもうひとつ非常に大事なことは、ト書きは「目に見える具体的なことを書く」ということです。例えば「彼の心に愛情が沸き起こって来る」などと外から見えないことは書きません。こういう外から見えないことをどう表現するかを考えるのも脚本を書くということの重要な要素です。

あと生徒からよく聞かれるのは、「どのくらい詳しく書けばいいのか」ということです。これは「必要なだけ」としか言いようがありません。例えば散らかっている部屋をどの程度描写するかと言えば、「ひどく散らかっている部屋」だけでも問題ありませんが、「脱いだ服や食べた後のカップ麺の容器が散乱している」と書き加えてもいいでしょう。しかし「脱いだズボン、シャツ、下着、靴下などが......」とまで書くと、「そこまで書かなくていいよ」という感じがします。ただ、これがその人物の初登場のシーンで、いかにこの人が片付けられない性格かを強調したいということなら、絶対ダメとも言えません。というように別に絶対的な基準があるわけではないのです。

ではト書きをどのように勉強すればよいのでしょうか。僕はト書を意識的に勉強した記憶はありません。上記のような間違いがあればその都度指摘を受けて直して行けば、やがてはわかって来るものだと思います。あえて勉強したいということであれば、まず映像になったドラマなどを見て、このシーンのト書きはどう書かれているだろうと想像しながら自分なりに書いてみて、後で実際の脚本と比べてみるとよいのではないでしょうか。これをやるには脚本が月刊ドラマに掲載されるなどして入手出来るものである必要がありますが。

[尾崎将也 公式ブログ 2016年5月1日]

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