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連ドラはこうして作られる(その1)~企画と物語の違いは何か

Mar 08, 2013

CATEGORY : ドラマ

現在、4月から放送開始の連続ドラマ「ダブルス~二人の刑事」(テレビ朝日、木曜9時)を執筆中です。今回は民放の連続ドラマがどのように作られて行くかということについて書いてみます。

脚本家の仕事は、ある日プロデューサーから「今度の×月クールの連ドラを書かないか」と言われるところから始まります。ほとんどの場合、その時点で主演の俳優が決まっています。つまり「この人を主演にして、どんなドラマをやると面白いか」ということを考え始めるわけです。このときプロデューサーや主演俳優から「こんなものをやりたい」というリクエストがある場合もあれば、全くの白紙の場合もあります。もちろんマンガや小説などの原作がある場合もありますが、僕は長い間原作ものをやったことがありません。別に避けているわけではないのですが、「尾崎将也はオリジナルもの」というイメージが強いのかも知れません。
原作がない場合は、脚本家とプロデューサーでああでもこうでもないと色々と案を出し合って「企画」を作って行きます。そして「これで行こう」という企画が出来たところで脚本家が企画書にまとめます。この企画書は、主演の俳優(とその事務所)に最終的な出演OKをもらうためというのが主な目的です。ここで企画の修正が必要になることもあれば、完全にボツになって新しく考えなければいけない場合もあります。
企画が決まったら、脚本家は必要に応じて取材をしたり資料を読んだりしながら第一話の執筆作業に入ります。この過程で登場人物が固まって行き、プロデューサーは主演以外の出演者を決めて行きます。1話の脚本が出来てメインキャストが決まれば、ドラマの全体像が固まったという感じです。ものすごく大雑把ですが、こんな感じで連ドラの作業はスタートします。

今回は「企画」が固まるまでのお話でした。企画を考える作業は、気に入らなければリセットして最初から考え直せばいいという気軽さがあって、連ドラを作る作業の中では一番楽しい時期だと言えます。
このあたりの作業をしていてよく思うのは「企画」と「物語」の違いは何か、ということです。企画を考える作業の中には、当然登場人物や物語を考える作業も入っています。しかし面白い物語を思いつけばそれが企画になるのかというと、そうでもありません。企画は出演者や放送枠なども含めたドラマ全体のパッケージを構築する作業と言えまず。逆に「阿部寛さんが専業主夫を演じると面白いのでは?」という一発アイデアもまた企画です。「企画作り」は「見ようという気にさせる作業」で、「物語作り」は「見始めた人に面白がってもらう作業」と言うと、わかりやすいかも知れません。

2話以降の毎回の脚本を書いて行く作業についてはまた次回。

2月24日(日)「シナリオ&ドラマ フェスティバル」 に出演します

Jan 17, 2013

CATEGORY : ドラマ

2月24日(日)に開催される「シナリオ&ドラマ フェスティバル」というイベントに出演します。場所はめぐろパーシモンホール小ホール(東急東横線・都立大学駅徒歩7分)、イベントの開催時間は朝9時45分から夕方4時で、僕が出演するのは、昼12時半から2時まで行われる「カフェ・ラ・テ」公開録音です。「カフェ・ラ・テ」はラジオ日本で毎週木曜深夜3時から放送されている番組で、パーソナリティは東海林桂さんとさらだたまこさん。この日のゲストは尾崎将也の他に、第37回創作テレビドラマ大賞を受賞した藤井香織さんです。

この番組には前に一度出たことがありますが、そのときはスタジオでの録音でした。今回は公開録音ということで、「今の失敗、ちょっとやり直し」とか出来ないと思うと緊張します。たぶん、ドラマに興味のある方や脚本家志望の方には面白い内容になるんじゃないかと思います。

入場は無料。ご希望の方は観覧希望受付フォームから申し込みをお願いします。

 

「結婚できない男」はこうして生れた・その2

Jan 12, 2013

CATEGORY : ドラマ

前回は企画が決まるところまで書いたので、今日はその続きを。このドラマは、当然阿部寛さんが演じる桑野信介という主人公のキャラがドラマの胆になるわけですが、実はその点では全然苦労はしませんでした。なぜかと言うと、基本的に桑野は尾崎将也という人間の分身だからです。「自分を書けばいいだけ」という楽な作業だったわけです。阿部さんはそんな桑野を見事に演じてくれました。(うちの妻によると「阿部さんは絶対あなたを研究した上で演じてる」とのことです)
苦労したのは女性たちのキャラクターです。桑野の周囲にいる女性たちにどんな特徴を与えればいいか。それを考えるために、脚本を書き始める前にいろんな女性に取材をしました。そんな中、ある会社の20代~30代の独身女性たちと飲み会をしたときのこと。20代の後輩女子が30代の先輩女子にこう言いました。「○○さんて、定年まで会社に勤めるんですか?」僕はそれを聞いてハッとしました。なんという微妙なセリフ。解釈によっては「あなたは結婚なんか出来そうにないから定年まで会社にしがみつくしかないんじゃないんですか?」という意味にも取れます。もちろん当人はそんな悪気はなく、ごく普通に質問しているのです。それから注意して女性たちの会話を聞いてみると、「20代の女は30代の女にかなり失礼なことを言っている」という事実を発見しました。さっきの例は面と向かって話している場合ですが、その場に30代の人がいないときにはもっと過激なことを言ってます。「30代になってもやっぱり理想ってあるのかな」とか「20代で彼氏いない歴二年なんて恥ずかしいけど、30代になったら何年いなくても同じでしょ」とか。僕は「これだ」と思いました。そこで夏川結衣さん演じる夏美に対して、国仲涼子さん演じるみちるが徹底的に失礼なことを言いまくることにして、20代、30代それぞれのキャラを浮かび上がらせようとしたのでした。夏川さんは何を言われても微妙な笑みで受けとめる素晴らしい演技をしてくれたし、国仲さんもひどいことを言っても憎めないキャラを可愛く演じてくれました。
あれから数年。さっき例に出した、30代女子に対してひどいことを言っていた20代女子も今年で30歳。まだ独身です。

次に何を書きたいか?

Jan 08, 2013

CATEGORY : ドラマ

「次はどんな作品を書きたいですか」という質問をときどき受けますが、答えに困ります。というのは、そんなことはあまり考えていないからです。僕は「次はこんな作品に挑戦したい」とか「このテーマで書きたい」とかいうことはほとんど考えません。注文が来たら、その注文に合わせて書くというのが基本です。それでもここ数年は(特に連続ドラマは)主演の俳優だけが決まっていて、「この人を主役にして何をやろうか」というところからスタートすることが多いので、ある程度「こんなことをやりたい」という希望を言えるようになりました(前回書いたように「結婚できない男」はそういう幸運の中で生れました)。でも毎回そううまく行くことはなく、プロデューサーや主演俳優の意向によっては自分の意見が通らないこともあります。

では脚本家は自分の意に染まないものを書かなければいけない仕事なのかというとそうではありません。他人が発想したことであっても、まるで自分自身が前々からそれをやりたいと思っていたかのように書くことが出来るのがプロの脚本家だと思います。与えられた題材の中に「あ、ここをこう料理すると面白いドラマになるな」ということが発見出来れば、それはもう自分のドラマなのです。つまり脚本を書いている時点では、人から与えられたものではなく自分が書きたくて書いている作品になっているのです。それがどうしても出来そうになければ、その仕事はお断りするか、収入のためだけにやると割り切るかすればいいのです。

これは料理人が「こんな料理を作って」と注文を受けて料理を作ることや、建築家が「こんな家を建てて」と注文を受けて家を作ることと似ています。脚本家には「作家」の部分と「職人」の部分があって、人によってこの二つの割合は違いますが、尾崎将也という脚本家の場合は職人の割合が高いのだと思います。

このへんは脚本家志望の人にはピンと来ないところかも知れません。アマチュアのときは、他人の指図を受けることなく自由に書きたいものを書いているのに、プロになると誰かに題材やテーマを提示されて書かなくてはいけないと思うと不安になるのも当然です。でもアマチュアのときにプロになってからのことを心配する必要はありません。ひたすら書きたいものを書くべきです。教室の生徒に「どうしてこの題材を選んだの」と聞くと「何となく」と答える人がいますが、どうもそういう人がプロになれそうな気がしません。なぜ自分がこの題材やテーマに引かれたのかということを自分という人間のアイデンティティにからめて説明出来るくらいでないといけないと思います。そういうことが、プロになって人に題材を与えられても、その中に自分なりのドラマを見つけられる能力につながって行くのだと思います。

「結婚できない男」はこうして生れた

Jan 07, 2013

CATEGORY : ドラマ

連続ドラマはほとんどの場合、主演俳優が決まっているところに脚本家が呼ばれ、「この人を主役にしてどんなドラマを作ろうか」と考えるところから始まります。「結婚できない男」の場合も、阿部寛さん主演で何かをやるかというのが出発点でした。僕は「阿部さんで偏屈な男が主人公のラブコメをやったら面白いのでは」とプロデューサーに言いました。まだ企画書もなく口頭で話しただけだったと記憶しています。しかし、すぐに賛同は得られませんでした。「面白いドラマになるとは思うが、果たして当たるかどうか」というのが理由です。僕自身、「きっと当たる」と言えるほどの自信はありません。そしてプロデューサーは、まずある原作ものの企画を阿部さんに提案しました。ところか阿部さんがそれには乗らなかったため、プロデューサーが「そう言えば尾崎将也がこんなのはどうかと言っていた」と話したところ、阿部さんが「それで行こう」と言ったそうです(僕はその場にいなかったので詳しい会話の流れはわかりません)。そんなわけで、阿部さんが乗ったという一点でこの企画が成立したのです。
つまりこのドラマは視聴者に何が受けるのかを考え、練りに練った結果生れたわけではなく、僕のふとした思いつきに阿部さんが乗ったという、割と成り行きっぽい流れで決まった企画です。それが結果的には視聴率的にも成功して、僕の代表作と言えるドラマになるのですから不思議なものです。
作品が成功するのは嬉しいことですが、同じようなことをもう一度やれと言われて出来るものではありません。決まったマニュアルがあって、それに従って作ればヒット作が出来るというようなような「再現性」はないのです。あるいはヒット作を連発するような人はその再現性を意識的にせよ無意識的にせよ、何かつかんでいるのかも知れませんが、僕にはそのような自覚はありません。これまでに何本かヒットした作品はありますが、その法則は何かと聞かれると、「たまたま」という答えになってしまいます。誰か分析してヒットの法則を見つけて教えて欲しいものです。

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