「メタファー」は役に立つ
今回は脚本の書き方と直接関係ありませんが、脚本に限らず何か目標を達成しようとするときや、問題を解決しようとするときに非常に役に立つ「メタファー」の話です。
「メタファー」とは「暗喩・隠喩」のことです。簡単に言えば「例え」です。僕は何かにつけて「この状態を何かに例えると......」ということを考える癖があります。この癖がいつから始まったかはわかりませんが、大学の頃、立花隆さんの文章を読んでいて、「これは例えるなら、こういうことだ」みたいな話が何度も出て来て、「すごくわかりやすい。うまい例えを思いつくものだな」と思ったのがきっかけだったような気がします。
メタファーの効用は、単に「ある状態をわかりやすく説明出来る」というだけではありません。「現状はこういうこと。ではこれからどうするか」というふうに、今後の指針や解決策を考える助けにもなるのです。例えば、ある困った状態を「壁にぶつかっている」というメタファーで表現したとします。この問題をどうやって解決するかということを考える際に、「壁」というメタファーをベースに考えて行くのです。壁の向こうに行きたいなら、ドアはどこかにないだろうか。ドアがないなら、壁に穴をあけることは出来るか。壁が厚く、穴をあける道具もないなら、乗り越えるための梯子はないだろうか。または自分の身長が伸びて壁を跨いで行けるくらいになればいいのではないだろうか、等々。色々考えるうちに「背が伸びれば確かに壁は乗り越えられるかもしれないが、背を伸ばすには時間がかかる。それよりはすでに存在している梯子を持ってくる方がよい」という結論めいたものに達します。そうしたらそれを現実世界に戻して「梯子に相当するものは何か」と考えるのです。例えばそれがある専門知識だと気づいたら、ではその専門知識を持っているのは誰かと考えを進めて行きます。このようにメタファーは現実をよりよい方向に持っていくための筋道の通った考えをするときに非常に役に立つのです。
こういうことは誰でもある程度は無意識にやっているかもしれません。また必ずしもメタファーを使わなくても考えを進めることは可能です。しかし、メタファーの有効性を理解した上で意識的に使った方が、より明確な結果を得らるでしょう。
もうひとつメタファーの役に立つところは、考えたことを人に説明するときに非常にわかりやすく話すことが出来るということです。
書籍「3年でプロになれる脚本術」でも、多くのメタファーを使っています。例えば125ページの、「勉強して実力をつけることが川の土手を上流に上って行くことだとすると、プロになるのは向こう岸に渡ることだ」などというのがそれです。
僕がこのメタファーを思いついたのは、日本脚本家連盟の教室の講師の会合でのことでした。他の講師の人が、「どうしたら人気ドラマを書けるようになるかというようなことを、もっと授業で教えたらどうか」と発言したとき、僕はその意見に違和感を感じました。その違和感とは、「どうしたら人気ドラマを書けるかはプロになってからのこと。今、生徒に必要なのは勉強してプロになる実力を身につけることではないか」というものです。これをうまく説明出来ないかと考えるうちに、このメタファーを思いついたのです。
これを思いつくと、「どうしたらプロになれるか」という問いに対して、このメタファーを説明した上で、「十分上流に行けば(実力をつければ)自然と橋がある」とわかりやすく説明することが出来ます。また先の「人気ドラマを書けるかどうか」という問題にも「それは橋を渡ってからのことなので、今は上流に向かうことだけ考えるべき」と答えることが出来ます。本書でやっているように図示すれば、さらに説得力が増すでしょう。
しかし、あるメタファーが必ず全てを正確に説明出来るとは限りません。この川の例で言えば、「あとどれくらい上流に行けば橋があるか、どうすればわかるか」という問題があります。これに対しては、「この川は常に霧がかかっていて、橋までの距離はなかなかわからない。とにかく上を目指すしかない」とメタファーに修正を加える必要が出て来ます(書籍巻末の脚本家志望者との座談会でその話をしています)。あるいはもっとうまく説明出来る別のメタファーを思いつくこともあるかもしれません。
こういうことを考えるには頭の柔軟性が必要です。これは面白い脚本を書く能力とも通じるのではないでしょうか。
[告知]
監督作「世界は今日から君のもの」(主演・門脇麦)が今年公開されます。
書籍「3年でプロになれる脚本術」(河出書房新社)が発売中です。
[尾崎将也 公式ブログ 2017年1月9日]