キャラクターをどうやって作るか、という前に必要なこと
「登場人物のキャラクターってどうやって作るんですか?」という質問をよく受けます。その質問を聞く度に、少し不思議な気がします。「すごく魅力的なキャラ」や「多くの人の共感を得られるキャラ」を作るのは難しいかも知れませんが、とりあえずその人物なりの特徴や個性のあるキャラを作ることがさほど難しいとは僕には思えないのです。なぜかと言えば、我々は生きていると現実に多くの人と知り合ったり関ったりします。出会う人それぞれが違う個性や特徴を持っているのですから、登場人物のキャラを作るとき、これまで会った色々な人を思い浮かべて行くだけでも自然とキャラは出来るのではないでしょうか。
「いや、それが難しいんだ」ということだとすれば、普段人間を見る視線に何か問題があるのではないかと思われます。世の中には、様々な年齢、職業、立場、性格、考え方の人がいます。社会の中で起こるいいことも悪いことも、言ってみればみんなキャラのぶつかりあいから生まれるものです。それらをちゃんと見て、そして考えているかどうか。
人それぞれ、興味のある分野があります。例えば僕は戦車が好きなので、戦争映画を見ていて戦車が出て来ると、つい目が行きます。そして「この戦車は何々だから、ここに出て来るのはおかしい」などとウンチクを語ったりします。でも戦車に興味のない人にはどんな戦車が出て来ようが違いなど関係なく、戦車一般でしかないのです。
一方僕はファッションに興味がないので、人の服装に全く目が行きません。でも興味のある人には、ちょっとしたコーディネイトの違いなどに目が行くのでしょう。
どんな分野であれ、興味があるからこそ、その話題で人と盛り上がったり、情報を集めたりするからますます詳しくなって行きます。そしてより細かいところや深い部分に目が行くようになるのです。
脚本を書く者は、「人間」に興味がなければなりません。いつも興味を持って人を観察して、それぞれの個性の違いに目が行ったり、「あの人はどうしてああなんだろう」と考えたりしていなくてはなりません。それは単なる好き嫌いとは違います。むしろ嫌いな人とか、相性の悪い人ほどよく観察する必要があります。
興味を持って見ていると、人間は単純なものではないとわかります。例えば人には表と裏があります。本音と建前が違ったり、相手によって言うことを変えたりもします。また自分でも気づいていない無意識の言動もあります。そう言った複雑さを持った人間たちが関わり合うことで世の中に色々なことが起こるわけで,人を単独で見るだけでなく、関係性で捉える視点も必要です。
もうひとつ大切なことは、自分にとって一番身近な人間は自分なのだから、一番簡単に観察できる対象は自分だということです。自分がどんな人生を生きて来たかということは詳しく知っているし、今どんなことを感じているかという頭の中身もわかります。自分はどんな人間で、何を感じ、何を考えているか、自分の個性はどんなものか、どうして自分はこういう人間になったのか、他の人と何が違うか。そういったことを考えることが重要です。
また、これらのことに興味を持っていると、自然とそういうことが書かれた本が読みたくなるものです。僕の場合は、ユングの心理学に興味を持って色々な本を読んだことが、人間を理解する上で、さらには脚本を書く上で非常に役立っています。
キャラクターを作るということが出来るようになるには、テクニックとかノウハウ的なことよりも、その前段階として普段から自分を含めた人間にどれほど興味を持って見ているか、どれほど考えているか。まずはそのことが大切なのです。
そして、人間を知るということに関しては、これで十分というゴールはありません。おそらく一生勉強は続くのでしょう。
[尾崎将也 公式ブログ 2014年10月19日]