「7人の女弁護士」と「結婚できない男」
もうけっこう古い話ですが、新規の仕事の依頼を受けるかどうか考える度に思い出すことがあります。
「結婚できない男」(2006年7月クール)が放送されていた頃、ネットを見ていて一般の視聴者がこんなことを書いているのを見つけました。「このところ不調だった尾崎将也がこのドラマで復活した」・・・「不調」とは何を指すのかというと、たぶんその直前の4月クールに放送された「7人の女弁護士」です。自分としては別に不調だったわけではなく、たまたま受けた仕事がそのドラマだっただけのことです。しかし視聴者からは「7人の女弁護士」が脚本家・尾崎としては不調で、「結婚できない男」で復活したように見えるのも、ある意味では仕方ないのかなという気もしました。
「7人の女弁護士」は、主人公の弁護士を中心に7人の女性弁護士たちが、殺人事件の被告の無実を証明して真犯人を暴く一話完結もので、「弁護士もの」というより「事件もの」と言うべき内容のドラマです。複数の脚本家が分担して書くので、メインライターがあまり個性を発揮してしまうと他の人が合わせて書くのが大変になってしまうこともあり、自分の独自性は抑えなければいけません。視聴率はまずまずで第2シリーズまで制作されたので、番組としては成功した部類と言っていいでしょう。しかし尾崎将也の作品として代表作に入れるような作品かと言うと、明らかに違います。
一方「結婚できない男」は、自分の作家性を全開にした作品で、他の人には書けないものです。結果的にドラマの評価も視聴率もよく大成功した作品です。脚本家として今後やるとすればどっちのタイプのドラマをやりたいかと聞かれたら、明らかに「結婚できない男」の方です。しかし以前書いたように「結婚できない男」も、最初にプロデューサーが提案したのは全然別の企画でした。主演の阿部寛さんがそれには乗らず「結婚できない男」の企画の方に乗ったので、この作品が実現したのです。阿部さんが提示されたものをそのままやるタイプの人だったら「結婚できない男」というドラマは生れていなかったでしょう。
このように脚本家がどんな作品を書くことになるかは、そのときどきの運に左右されることが多く、常に本人の作家性を全開にしたものだけをやって行くのはなかなか難しいことです。もちろん「やりたいものしかやらない」という意志を貫くのは自由ですが、それで生活して行けるだけの収入が得られるかという問題があります。
ドラマが成功すれば、脚本家だけでなく関係者みんなが喜びを分かち合うことが出来ます。「だったら、『結婚できない男』みたいなドラマをこれからもどんどんやればいいじゃないか」と誰しも思うところでしょうが、なかなかそうは行かないのが現状なのです。そんな中で、どうやって脚本家としての独自性を出しつつ、周囲と協調性を保って仕事を継続して行くかはなかなか難しいことです。
とは言いつつ、状況はどんどん変化して行くものです。来年はこれまでとは全く違ったタイプのドラマに挑戦します。今回述べたような問題についても、自分なりの答えを出して行くことになると思います。
〔尾崎将也 公式ブログ 2013年8月16日〕