脚本の初心者が避けるべき題材とジャンル
春になり、色々な脚本の教室で新しいクラスが開校しています。僕が講師を務める日本脚本家連盟スクールでも講座がスタートしました。教室に入って、初めて脚本というものを書く人も多いと思います。どんなことを題材にして脚本を書くかは各自の自由だと思いますが、僕の経験上、初心者は避けた方がいいと思われる題材やジャンルがあります。今回はそれをいくつか挙げてみます。
「群像劇」
ドラマは一人の主人公を軸に書いて行くのが基本です。プロの作品には、主人公を一人に絞らず複数の人をまんべんなく描く群像劇というものがありますが、初心者はまずドラマの基本を学ぶために、一人の主人公を決めて書いた方がいいと思います。無理に群像劇を書こうとしても、散漫なものになるだけです。
「ものすごく取材や勉強が必要なもの」
例えは歴史上の事件を題材にするもの。脚本を書くために、題材について取材したり勉強したりすることは結構なことですが、それも程度問題です。ものすごく難しい題材に取り組み、多くの時間をかけて取材や勉強をしたとしても、その時点ではその題材に関して詳しくなっただけで、脚本の勉強はまだ何もしていません。脚本の基礎を学ぶのが今やるべきことなのですから、取材や勉強がそれほど必要でない身近な題材で書く方がいいと思います。
「時間や空間を限定したもの」
舞台劇では時間と空間が制限された設定の中でドラマを書くのは普通のことですが、初心者はこれは避けた方がいいと思います。制限があるというのは、逆手に取れば面白くなりますが、初心者には難しいことです。ストーリーが展開せず、とりとめのない内容になってしまう危険性が高いです。
「ミステりー、ファンタジー、アクション」
これらはエンタテインメントのジャンルとしてはポピュラーなもので、実際アメリカ映画の8割方はこのどれかでしょう。しかしこれらの脚本を書くには、そのジャンルならではのセオリーやノウハウが要求されるもので、脚本の基礎とは違うものです。観客としてそういう作品が好きということと、初心者が勉強のために書くべきかどうかは別の問題です。
「スポーツもの」
初心者がスポーツものを書くと、試合のシーンばっかりで肝心のドラマが全然ないという結果に陥りがちです。スポーツの試合の勝ち負けと、ドラマをシンクロさせることは実はけっこう難しいことです。シーソーゲームの試合を書きさえすればドラマになるというのは勘違いです。
講師をしていて、生徒がたまたまこういう題材を選んでしまって四苦八苦するのを見て「初心者にはこういうのは難しいんだな」と思ったものをいくつか挙げてみました。これで全部ではなくごく一部です。もちろん四苦八苦したり試行錯誤したりするのはいいのですが、いきなり難しい題材を選んでしまったために「脚本て難しい」と脱落して行く人をたくさん見て来ました。そうならないために、初心者として取り組みやすい題材を選ぶ方が無難だと思うのです。
〔尾崎将也公式ブログ 2013年4月26日〕