映画を分析した結果を頭に定着させる方法
前回は、映画を分析するとはどういうことかを書きました。今回は、分析した結果をどのように自分の頭に蓄積し、定着させて行くか、ということを書きます。
まず大切なのは分析した結果を紙に書くことです。僕の場合は「このセリフが面白いのは、こうだから。それを公式化すると、こういうこと」というふうに一件一枚でカードに書いて行きました。なぜカード形式にするかと言うと、後で分類してファイルに出来るからです。一本の映画ごとに箇条書きで書くと、そこにはセリフやストーリーやキャラクターなど様々な事柄が混在していることになります。一件一枚でカードにすれば、後で分類して同じ項目ごとにまとめることが出来ます。すると「この映画のこの場面で使っているテクニックは、こっちの映画のこの場面と同じだな」などというふうにつながりが生れ、体系化されて行くのです。
ではこのカードは何枚くらい作ればいいのでしょうか。別に基準があるわけではありませんが、僕の場合は「千枚たまったら分類しよう」と決めました。そして一年ほどかけてカードが千枚たまると、「セリフ」「キャラクター」「ストーリー」「小道具」などに分類してファイルを作りました。その後もカード作りは続行したので、最終的には千数百枚くらいのカードになりました。その結果出来たファイルは「面白い脚本を書くための虎の巻」のようなものです。
「そのファイル、コピーさせて」と思う人がいるかも知れませんが、それは意味がありません。英語の単語帳をコピーしても単語を覚えたことにならないのと同じことです。このファイルは作って行く作業自体が内容を頭に入れて行く作業であって、他人が作ったファイルを見てもほとんど役に立たないと思います。実際、僕は作った後でこのファイルを見ることはほとんどありません。もう頭に入っているからです。
「1年以上もかけてカードを千枚書くなんて途方もない作業だ」と感じるかも知れませんが、習慣化さえ出来れば、会社勤めしている人でも自由時間の範囲で出来ることです。僕は元々、何事も三日坊主で終わるタイプの人間です。日記など続いた試しがありません。しかし、なぜかこの作業だけは続いたのです。それは自分にとって楽しい作業だったことと、脚本家になろうというモチベーションがそれだけ強いものだったからだと思います。この作業をやったことが、自分が脚本家になれた大きな原因のひとつだと思います。このやり方は誰に教えてもらったわけでもなく、自分で考え出したものです。今から思うと、尾崎将也という人間には脚本の才能というより、こういう方法を編み出す才能があったのかも知れません。
ところで、ドラマの全体の大きな流れを把握して、構成とは何か、物語とは何か、ということをつかんで行くのは、今回書いたのとはまた別に作業になります。そのことについては、また別の機会に書こうと思います。