映画を分析することが脚本上達の近道
「いい脚本を書くには脳にインプットするものの質と量が大切だ」と以前の記事に書きました。脚本の勉強法には色々とありますが、僕が個人的に生徒時代に一番効果的だったと思うのは、「面白い映画を分析する」ということです。
誰しも、いい映画を見ることが脚本の勉強になるという認識は持っていると思います。しかし、ただ見るだけでは効果が限定的です。効果を最大化するには分析という作業、つまりその作品がどのように作られているかを解き明かす作業が必要です。面白いと思ったシーンについて、「そうか、こうなっているから面白いのか」という答えが見つかるまで考えるということです。分析とはあくまで論理的な作業です。「面白い」という感覚的なものを、「面白いのはなぜか」という論理に置き換えて行くのです。
一例を挙げてみましょう。アルフレッド・ヒチコック監督の「見知らぬ乗客」(53)で、テニス選手の主人公がある男につきまとわれます。あるシーンで、テニスコートにいる主人公がスタンドを見ると、その男がいてじっと自分を見つめています。このときスタンドにいる他の観客はボールの行方を追って一斉に首を左右に振っているのに、この男だけが首を動かさず、じっと主人公を見つめています。思わずゾッとする有名なシーンです。しかしここで「あの場面、ゾッとしたね」で終わっては分析にはなりません。ではどう分析するか。
僕が考えたことは、この男が誰もいない場所に一人で立ってこっちを見つめていても、さほどゾッとしないのではないかということです。あくまで他の人が全員首を左右に振っているのに、この男だけじっとこっちを見ているのが怖いわけです。そこから導き出せることは、「何もないところにAをひとつだけ置いてもインパクトはない。Bばかりの中にAをひとつだけ入れると、Aの特徴が際立つ」ということです。このように公式めいたものを導き出せると、他のことに応用出来ます。例えば、薄汚い恰好をした男が一人だけいるより、結婚式のように全員が正装をしている中に汚い恰好の男を一人紛れ込ませた方がその恰好の汚さが強調される、というふうに。
あとは、こういう分析結果の数を増やして行き、それを頭の中に蓄積して行くのです。ではその蓄積方法とは? それはまた次回に。