映画分析の方法・補足
拙著『3年でプロになれる脚本術』を読んだ方から、映画を分析してカードを作る方法について質問が来たので、本書に書いたことの補足として、いくつか注意事項を書きます。
本書では、映画を見るときは一回目はお勉強モードにならずに、普通に観客として見るように、と書きました。その理由は、人を楽しませるものが書けるようになるには、まず自分自身が映画やテレビドラマを楽しんでいることが大切だからです。つまらないと思ったり退屈したりということも逆の意味で大切です。観客として何かを思っていることが必要なのです。
次に、自分が何を面白いと感じたのか、どこに感動したのかを考える段階に入ります。ここからが分析の作業です。漠然と「なんか面白かったなあ」というだけでなく、
①どこがどう面白かったのか思い出す。
②そこはなぜ面白いのか考える。そして「ここがこうなっている」「こんな工夫があるから面白い」という答えを見つける。
③それを言語化し、紙(カード)に書く。
という作業を繰り返すのです。
要は①~③の作業をたくさんやればよいので、別にそれ以上のお作法のようなものはありません。よく出来た映画を詳細に分析すれば、20~30枚のカードを書くことが可能でしょうが、別に1枚でも書ければそれでよいのです。また作品全体を見ていなくても、例えばテレビドラマをたまたま途中だけ見たときに何か気付いたことがあれば、それで1枚のカードを作ってもよいのです。
それとは別にストーリーや構成を学ぶ方法として、映画を見て構成表(逆バコ)を作る方法を書きました。今回の質問は「構成表を作るのは2回目に見るときか3回目に見るときか?」ということですが、別にそんなことはどうでもいいことです。
構成表を作る作業自体は単純作業です。上に書いたカードを作る方法は、カードに書き込む時点で何かを発見しているはずです。しかし構成表は、それ自体は単に流れを箇条書きに書いただけのもので、書く時点でまだ何もわかっていなくてよいのです。
問題は、出来た構成表を見て何を読み取れるかということです。まずは「ここで主人公が登場している」「ここで主人公が事件に巻き込まれている」「ここで話が大きく転換している」など表面から読み取りやすいことを読み取って行きましょう。
次に「三幕に分けるとすればどこか?」「クライマックスはどこか?」「ミッドポイントがあるとすればどこだろう」など深い部分に入って行きます。この段階のことをやるには、そもそも「三幕構成とは何か」「クライマックスとは、ミッドポイントとは何か」というようなことがわかっている必要があります。わからなければわからないなりに「どうも自分はまだよくわかっていないようだ」と思えばよいのです。何も思わないよりは意味があります。
カード作りにせよ、構成表から読み取る作業にせよ、作品を何度も見て考えることを繰り返せば、見方は深まって行くはずです。だから「何回目に見るときにこの作業をやるべき」というようなことはないのです。繰り返し見ながらやって行けば、前に見たときにわかっていなかったことに気付くことがあるでしょう。
「そんなに一本の作品の分析に手間をかけるのか?」「どのくらいで別の作品に移ればいいの?」という疑問が沸くかもしれませんが、特に決まりはありません。飽きたら別の作品に移るでもいいし、「一本の作品を深めるより多くの作品にトライしたい」と思うのであればそれでもいいと思います。上にも書いたように、チラリと見ただけの作品からひとつだけでも学ぶことがあれば儲けものなのです。この勉強法は、何かをクリアして次に進むものではなく、たくさん積み重ねた先に何かが見えてくるという性質のものです。本書に書いたやり方は、「これが正しいやり方なのでそれを守ってやるべき」などということは全くありません。自分でやるうちに「こっちの方がやりやすい」とか「この方が効果がありそうだ」と思えば、変更してよいのです。
ここに書いた方法に限らず脚本の勉強は、長期間かけて少しづつ積み上げていくものです。短期的なことなら「頑張って」やることが出来ますが、長期的なことを頑張り続けるのは難しいです。頑張らずに、日常的に、ごく普通のこととして楽しんでやることが長続きする秘訣です。
[尾崎将也 公式ブログ 2018年4月6日]
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