脚本初心者あるある
僕は日本脚本家連盟スクールで講師をしており、半年ごとに本科で脚本の初心者を指導しています。もう十年以上やっていますが、長年やっていると初心者が書く作品によくあるパターンというのが見えて来ます。数え出すとたくさんあると思いますが、ここではそのいくつかを紹介します。これは脚本ではなくその前のプロット段階での話です。
●「テーマ(メッセージ)至上主義」
先日、ツイッターにも書いたことです。僕が「これはストーリーになっていない」と言うと、その作品で訴えようとしているテーマを必死に話す人がいます。テーマがあるのはもちろんいいのですが、問題は、どうすればそれをストーリーの中で語ることが出来るかがまだ見えていないということです。拙著「3年でプロになれる脚本術」でも書きましたが、これは畑から取って来た野菜を土のついたまま皿にのせて「食え」と言っているようなものです。この例えでは「それでは食べられない。料理をしないと」ということがすぐにわかりますが、脚本の場合は「料理するとはどういうことか」を理解するとこ自体がとても難しいのです。
●「主人公の目の前の目的や行動と、背景にあるものが区別出来ない」
刑事ドラマに例えるとわかりやすいのですが、刑事ドラマでは事件が起こり、主人公の刑事はその事件を解決すべく捜査します。この刑事は、強い正義感を持っていますが、この正義感は、刑事が捜査という行動を起こすためのモチベーションとなるものであって、正義感が直接ストーリーになるわけではありません。ストーリーになるのは「捜査の過程」です。生徒の多くはこの違いがなかなかわからないようです。「この刑事はこんなに強い正義感を持ってるんだ!」ということでドラマが出来たと勘違いしていて、「いや、捜査しないとストーリーにならない」と言うと「??」という反応です。これは上の「土がついたままの野菜」と「料理されたもの」の違いがわからないことに通じます。
●「主人公が他人と直接的に関わらない話をやろうとする」
先日も生徒が書いた話の中に「一人で何かを探そうとする話」とか「一人で生活をする話」がありました。ドラマは、主人公と誰かが直接面と向かって葛藤するのを描くのが基本です。もちろん例外はありますが、初心者がわざわざ例外をやる必要はありません。上記のような話を選ぶのは、ドラマがどんなものかを知らずにたまたま選んでしまったということかもしれませんが、「無意識にドラマを避けた」というようなことがあるような気もします。
●「普通にある平凡な現象と、『面白い』ということが区別出来ない」
就職活動をする学生を主人公に作品を書こうとした生徒がいました。この人のプロットでは主人公が企業研究をして、面接に行って......ということが描かれていますが、ストーリーらしいことは起こりません。というよりこの人はこれらの誰でもやる普通の行動がストーリーだと勘違いしているようです。また刑事ドラマの例えですが、刑事が毎日地道に聞き込みをする様子だけを延々と描いたものが面白いでしょうか。聞き込みをするうちに、ある手がかりを発見するというところからストーリーが動き出し、それが「面白い」ということにつながるのです。
●主人公の抱える事情と、ストーリーの区別が出来ない
初心者のプロットには、主人公の抱える事情(例えば親に捨てられ、施設で苦労して育ったとか)を書き、それで枚数の半分くらいを費やしてしまうものがあります。でもそれは背景の説明であって、ストーリーはまだ始まっていません。「そんな主人公に、ある日こんなことが起こって......」というところからストーリーが始まるわけですが、こういうものを書く人は背景の説明でプロットを書いたと勘違いしており、肝心のストーリーはほとんど内容がないまま終わってしまいます。この問題を解決するのに効果的な方法を以前書いたので、こちらを読んでください。
これらを読んで、「どうすればこういう問題を避けられるだろうか」と考えることにはあまり意味があるとは思えません。事前にいくら考えたところで、やはり問題にはぶち当たるのだと思います。その中で試行錯誤するしかありません。ではここに書いたようなことを読んで何の意味があるのかということですが、問題にぶつかったときに、その問題が何なのかが理解出来ていれば、そこから抜け出す方法や、その先の道筋を見つける近道になると思います。
[告知です]
映画「世界は今日から君のもの」
監督・脚本:尾崎将也 / 音楽・川井憲次 / 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか
7月15日(土)から渋谷シネパレスほかで全国公開
予告編
[尾崎将也 公式ブログ 2017年5月29日]