連ドラはこうして作られる(その2)~「撮るものがない」状態だけは避けたい
「その1」では企画が生れる過程について書いたので、今回は企画が決定した後、脚本を書いて行く過程について書きます。1、2話を書く作業は、脚本を書く作業であると同時に企画を固めて行く作業であるとも言えます。脚本を書きながら企画を修正して行くこともありますし、脇役のキャスティングが決まったり撮影場所やセットの間取りなどが決まることで、それらが脚本にフィードバックされて行きます。
こうして1、2話を書く間に企画が固まると、次に3話以降の作業に入ります。1、2話は試行錯誤するので時間もかかりますが、3話以降は一定のペースでどんどん書いていくことになります。最終回を脱稿しなければいけない日までの日数を残り本数で割れば、1話あたりにかけられる日数が出て来ます。例えば4月クールなら5月末に最終回を脱稿しなくてはいけません(最終回の放送日によっても前後します)。2話まで出来たのが2月末で、全部で10話だとすると、3~5月の3カ月で8本書くことになります。ということは一本あたり約11日です。(NHKの朝ドラの場合は、一週90分の脚本を約12日平均で書いて行くことになり、民放の連ドラよりかなりきつい作業になります)
さてこの11日の中身ですが、一般の人は作家というと部屋にこもって原稿を書き、出来た原稿を渡せば仕事が終わる、というイメージを抱いていると思いますが、脚本家は11日間部屋にこもって一話の脚本を書くわけではありません。まずプロット(ストーリー)を書いて打ち合わせをして、こういう話で行こうと決まったら脚本の初稿の作業に入り、初稿が出来たらまた打ち合わせをして、直しの方向を決めて二稿の作業に入り、出来たらまた打ち合わせして......ということを繰り返し、「もう直すところがない」となったところで完成(決定稿)となります。どれくらい直すかは、ケース・バイ・ケースで、スムーズに行って直しが少なく済むこともあれば、手こずって何度も直すこともあります。僕の場合は平均3~4稿くらいです。この一連の作業を11日間でやるということです。
もちろん毎回予定通り11日で終わるはずもなく、難行して日数オーバーすることも当然あります。そうするとその後にしわ寄せが行き、最終回あたりは一本を一週間で書かなければいけないという状況になったりすることもあります。さらに脚本が遅れると、現場で「撮るものがない」という状態に陥ります。これが脚本家が最も恐れることでしょう。そういうことにならないためには、「今、何日遅れか」という状況を把握して、管理して行く必要があります。実はプロデューサーは意外と脚本のスケジュール管理はしてくれないもので、脚本家が自分でやって行かなくてはいけません。
また決定稿になる手前で、「これで大体出来たな」となったところで一度「準備稿」という台本を印刷します。これはスタッフがスケジュールを組んだりロケハンをしたり、衣装、小道具などの準備をするのと、主役クラスの俳優に読んでもらって意見を聞くことが目的です。俳優が意見を言うかどうかは人によって全く違います。何も言わない人もいれば、けっこう細かく言う人もいます。どちらにせよ準備稿を見せるということは「意見があったら今のうちに言ってください」ということです。ですからわがままな俳優が撮影中に「こんなセリフ言えない」と言って控室にこもったりする場面を映画やテレビドラマの中で見ることがありますが、実際はそういうことはまずありません。文句があるなら準備稿のときに言っているはずだからです。またスタッフからは「この場所ではロケの許可がおりないので変更して欲しい」など諸々の物理的な要望が出て来ます。これら俳優サイドとスタッフサイド両方の意見を入れて最終的な直しをしたものが決定稿になるのです。ですから決定稿は「これで問題なく撮影出来るはず」というものになっています。
スタッフにせよ俳優にせよ、意見はプロデューサーに対して言います。脚本家はプロデューサーとの打ち合わせでそれらの意見を聞きます。複数の人が矛盾する意見を言ったりすると脚本家は困るわけで、プロデューサーはそれらをちゃんと交通整理して脚本家に伝える役目があります。
このように短い時間の中で色々な人の意見や諸事情を取り込んで作品にまとめる力が脚本家には要求され、そこが小説家とは全く違うところです。こういう部分を楽しめるかどうかが脚本家に向いているかどうかの大事なポイントになると思います。
〔尾崎将也公式ブログ 2013年3月17日〕