ドラマの主人公は成長しなくてはいけないのか
ツイッターのフォロワーの人から「ドラマの主人公は必ず変化・成長しなくてはいけないのでしょうか」という質問が来たので、それについて考えてみます。
結論から言うと、必ず変化・成長しなくてはいけないのかというと、そんなことはありません。1話完結のシリーズものなどは毎回事件が起こっては解決することの繰り返しで、主人公が特に変化して行くことはありません。刑事ドラマは大抵そうだし、僕が書いたものでは「特命係長・只野仁」などもそういうタイプの作品です。ただし、そういう作品を書くのはプロになってからのことで、これから脚本家を目指してコンクールに応募する作品を書く人は、主人公を変化・成長させた方がいいと思います。
なぜかというと、そうしなくてはいけないからではなく、そうした方が作品が書きやすいし面白い作品になりやすいからです。ドラマは、基本的に何かが変化する様子を描くものです。刑事ドラマは主人公は変化しなくても、事件が発生し、犯人が誰かわからない状態から捜査によって犯人が割り出されて逮捕されるまでを描きます。その出来事の移り変わりが視聴者の興味を引くものなので、主人公が変化しなくても成立しているのです。
しかしシリーズものではないオリジナルの1話完結のドラマを、主人公を変化させずに出来事の面白さだけで描いて行くのは、不可能ではないにしてもむしろ難しいことではないかと思います。
ドラマを見る人は、そこに描かれている問題に無意識に着目します。刑事ドラマなら殺人事件の犯人が誰かわからないという問題が提示され、「犯人は一体誰だろう」ということに興味を持って見て行くことになります。一般的な人間ドラマの場合も、例えば主人公の娘と母親が対立することから物語が始まれば、「この親子の関係はどう修復されるのだろう」ということに興味が引かれるのです。親子の問題が解決されるためには、それぞれが自分の問題に気づくとか、それまで知らなかった相手の気持ちを知るとか、反省して態度を変えるとか、何らかの変化が必要です。知らなかったことを知ったり、反省したりすれば、普通人は成長します。変化とか成長は、ドラマの中で描かなくてはいけない面倒くさいことではなく、「普通そうなるでしょ?」ということなのです。
僕が脚本を書いた「結婚できない男」の場合、主人公は「俺はこのままでいい」と変化を拒絶している人物です。しかし周囲の人物と関わることで、不本意ながら少しずつ変化して行きます。だからあのドラマの場合も主人公の変化・成長は描かれているのです。