刑事ドラマを物差しとして使う
僕は教室で生徒にストーリーの問題点を指摘するとき、よく刑事ドラマを例に出します。例えば「これは刑事ドラマでいうと、事件が真ん中あたりでやっと起こるようなものだ」とか「これは刑事ドラマでいうと、途中で犯人が自首してしまうようなものだ」とか。刑事ドラマは誰でも見たことがあるし、決まったパターンがあるので、例として出しやすいのです。初心者は自分が脚本を書くときに刑事ドラマを「物差しとして使う」と便利です。
刑事ドラマの一般的なパターンは次のようなものです。
①主人公の刑事がいる。
②ストーリーの初めの方で事件Aが起こる。
③主人公の刑事たちは事件解決を目差して捜査を開始する。
④捜査という「行動」をする。
⑤犯人は簡単に捕まらず、苦労する。
⑥ついに事件Aの犯人を逮捕して結末を迎える。
などです。
それぞれの意味を説明すると、
①ドラマにはそれぞれ決まった主人公がいます。刑事ドラマでも当然主人公の刑事がいます。(複数の刑事の群像劇のような例外はあるかもしれません)
②ドラマには初めの方で「この話はこういうことをやります」という提示があります。刑事ドラマでは事件発生がそれに当たります。事件がなかなか発生せずに刑事の日常描写がダラダラと続くなどということはありません。
③ドラマでは主人公が何をやるかという目標や欲求が初めの方で設定されます。刑事ドラマでは「犯人を逮捕して事件を解決すること」です。
④ドラマは主人公が行動することで展開して行きます。刑事ドラマでは捜査がそれに当たります。刑事が「犯人の手がかりがない。どうしたらいいんだろう」と延々と悩むだけということはありません。一時的に悩むことはあっても、すぐに次の行動を見つけます。
⑤ドラマには「葛藤」が必要です。簡単にいうと「主人公が困る」ということです。刑事ドラマでは犯人が逃げている、または犯人が誰かわからないということで刑事は困っており、それを解決するために苦心します。犯人が簡単に捕まっては面白くありません。
⑥ドラマでは主人公は最初の方で設定された目標を最後に達成します。つまり一貫した軸があるということです。刑事ドラマでは最初に起こった事件Aを捜査し、その事件の犯人を捕まえるということです。事件Aが途中でうやむやになり、別の事件の話になるなどということはありません。
よほど変則的なものを除いては刑事ドラマはこれらの条件を満たしています。そしてこれらの条件は、一般の人間ドラマでも同じことです。しかし一般の人間ドラマは刑事ドラマのように必ずしも決まったパターンを当てはめられるわけではないので、初心者はこれらの条件を満たしているかどうか忘れがちになるのです。そのため「刑事ドラマに例えると変」なことがしばしば起こります。
具体的には「事件がなかなか起こらない」「簡単に犯人が捕まってしまう」「刑事がなかなか捜査しない」「最初の事件と最後に解決した事件が違う」などです。
ということは、これらの問題を解決するために刑事ドラマを物差しとして活用すればいいのです。「事件発生に相当することがちゃんと初めの方で起こっているか?」「刑事が捜査するように主人公が行動しているか?」というようなことです。
注意すべきなのは、刑事ドラマにおけるメインの葛藤は「犯人が誰かわからない、または犯人が逃げている状況」との葛藤で、いわば「人対環境の葛藤」です。それに対して一般の人間ドラマはほとんどの場合、人対人の葛藤がメインになります。また一般の人間ドラマでは、結末が犯人逮捕のようなデジタルでわかりやすい解決を取らない場合もありえます。というように全く同じとは行かない場合もあるということも認識が必要です。
それでもやはり刑事ドラマを尺度として使うのは初心者には有効だと思います。刑事ドラマの他にもヒーローものやスポ根ものなどはパターンが決まっていることが多く、同様に物差しとして使うことが出来ます。だから自分がこれらのジャンルの作品を書くつもりがないとしても、これらのジャンルを分析してパターンを知ることには意味があるのです。
[尾崎将也 公式ブログ 2020年2月18日]