P/PCバランスとは何か
脚本を書くことは「アウトプット」です。これまでにも書いて来たように、何かをアウトプットするためには、その前に必ず何かをインプットする必要があります。これはどんな分野でも同じで、スポーツの試合で勝つためには練習が必要だとか、試験でいい点数を取るためには勉強が必要だとかいうのと同じことです。無から有が生れることはないのです。ただ脚本の場合、何をどれだけインプットすればいいかということが明確ではありません。スポーツなら「ここを強化したいならこういうトレーニングが効果的だ」とかいうことがある程度科学的に言えるでしょうが、脚本にはそこまで明確な練習メニューのようなものはありません。映画を見ることや読書が一番効果的な人もいれば、実際に色々な人と関わって色々な体験をすることの方が重要な人がいるかも知れません。いずれにしてもインプットが大切ということには変わりません。
このあたりを理解するのに非常に有効な考え方があるので今日はそれを紹介します。それは「P/PCバランス」という概念です。これはスティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」という本に書かれているもので、Pは成果(Performance )、PCは目標達成能力(Performance Capability)のことです。スポーツの試合で勝つことがPだとすると、練習で鍛えた強い身体がPCに当たります。別の例えで言えば、野菜などの作物がPなら畑がPC。脚本の場合は、脚本がPで、PCは自分の脳の中に存在する脚本を書く能力です。
PCがなければPは生れません。なのに人はついPにばかり目が行ってしまい、PCを疎かにしてしまう傾向があります。特に脚本の場合はそれが顕著になります。その理由はPCが脳の中にあって目で見ることが出来ないからです。脚本を書く人は目の前にある自分の作品しか目に入りません。そして「どうすればこの作品がよくなるか」ということを必死に考えます。しかし、いい作品を書くためには脳にその能力(PC)がなければなりません。逆に言えば、脳の方にその能力がちゃんとあれば、自然といい作品が書けるのです。だから考えなければならないのは、作品(P)をどうするかより脳(PC)をどうするかです。かといって、パカッと脳を開いて外科手術すればいい脚本が書けるようになったりはしません。頭蓋骨の中にあって外から見えない脳に対して、外側から何らかの作用を及ぼして、PCを形作って行くしかないのです。その「作用」がすなわち「インプット」です。前に書いた映画を見て分析する方法は、「尾崎将也はこのやり方をしました」というインプット方法のひとつです。
この「P/PCバランス」という考え方は、脚本以外にも色々なところに応用出来ると思います。