若いうちはアウトプットよりインプットが大切
脚本を書くという行為は、「アウトプット」です。そしてアウトプットするためには何かをインプットしておく必要があります。いいものをアウトプットしたければ、インプットの質と量が大切になって来ます。極端な例えですが、砂漠に種をまいてウンウン唸っても作物は育ちません。作物を大きく育てたいなら、その土地に養分や水分が豊富にあることが必要です。この場合の土地が自分の脳だとすれば、作物が脚本です。いい作物を生み出したければ、その土地に養分や水分を十分にインプットしておく必要があります。ではいい脚本を脳からアウトプットするためには、何を脳にインプットしておけばいいのでしょうか。
「それはこれだ」と単純に特定することは出来ません。その人がそれまでの人生で、どんなテレビドラマや映画を見たか、どんな本を読んだか、どんな経験をして、どんな人と関わって、何を見たり聞いたり感じたり考えたりして来たか、その積み重ね全てが脚本の元になります。それらは一朝一夕に出来るものではありません。
小説家は高校生でデビューするような人がたまにいますが、なぜか10代で脚本家になったという話は聞いたことがありません。なぜかと考えると、おそらく小説は「自分のことだけ」で作品を書こうとすれば書けるのに対して、脚本は客観的に色々な人や事柄を描く必要があり、より人間や社会のことを広く知っている必要があるからではないかと思います。
ですから、小説家ではなくあくまで脚本家を目指すのではあれば、若いうちはアウトプットよりインプットを重視した方がいいと思います。焦って作品を書くよりは、例えば「名作映画百選」のようなものを全部見るというようなことを優先的にやって行く方が、時間はかかってもよい結果を生むはずです。そして学業にしてもバイトにしても大切なインプットの機会です。
別の職業の例として野球の場合を考えてみます。アマチュアの高校野球の選手が、普段何をしているかというと、自分の学校のグラウンドで汗まみれになって練習しています。ほとんどの時間を練習に割き、試合は限られた数しかやらないでしょう。ところがプロ野球に入ると、今度は年間百四十以上試合をするのです。アマチュアの間はひたすらインプットして、プロになったらひたすらアウトプットしています。プロの脚本家になりたいなら、「高校野球の選手が毎日グラウンドで必死に練習しているのと同じくらいに、自分は必死に何かをインプットしているだろうか」ということを考えるべきです。
今回は、若い人からツイッターにリプライがあったので、僕の意見を書いてみました。もちろんこれは尾崎将也個人の意見ですので、他の脚本家の人は違う考えを持っていることがあるかも知れないということはお断りしておきます。