「結婚できない男」はこうして生れた
連続ドラマはほとんどの場合、主演俳優が決まっているところに脚本家が呼ばれ、「この人を主役にしてどんなドラマを作ろうか」と考えるところから始まります。「結婚できない男」の場合も、阿部寛さん主演で何かをやるかというのが出発点でした。僕は「阿部さんで偏屈な男が主人公のラブコメをやったら面白いのでは」とプロデューサーに言いました。まだ企画書もなく口頭で話しただけだったと記憶しています。しかし、すぐに賛同は得られませんでした。「面白いドラマになるとは思うが、果たして当たるかどうか」というのが理由です。僕自身、「きっと当たる」と言えるほどの自信はありません。そしてプロデューサーは、まずある原作ものの企画を阿部さんに提案しました。ところか阿部さんがそれには乗らなかったため、プロデューサーが「そう言えば尾崎将也がこんなのはどうかと言っていた」と話したところ、阿部さんが「それで行こう」と言ったそうです(僕はその場にいなかったので詳しい会話の流れはわかりません)。そんなわけで、阿部さんが乗ったという一点でこの企画が成立したのです。
つまりこのドラマは視聴者に何が受けるのかを考え、練りに練った結果生れたわけではなく、僕のふとした思いつきに阿部さんが乗ったという、割と成り行きっぽい流れで決まった企画です。それが結果的には視聴率的にも成功して、僕の代表作と言えるドラマになるのですから不思議なものです。
作品が成功するのは嬉しいことですが、同じようなことをもう一度やれと言われて出来るものではありません。決まったマニュアルがあって、それに従って作ればヒット作が出来るというようなような「再現性」はないのです。あるいはヒット作を連発するような人はその再現性を意識的にせよ無意識的にせよ、何かつかんでいるのかも知れませんが、僕にはそのような自覚はありません。これまでに何本かヒットした作品はありますが、その法則は何かと聞かれると、「たまたま」という答えになってしまいます。誰か分析してヒットの法則を見つけて教えて欲しいものです。